虹を追う人 福光 雲母
子供の頃。虹を見ると 不思議でならなかった
あの虹の下はどうなってるんだろう？
どこまで行けば、あの虹のたもとに
たどり着けるんだろう？
とか。とか。
大人になって、水滴に光が反射して見える
幻だと知っても虹を見ると、
なぜか 心が騒いだ。
一度 車で、虹のたもとに向かって
走り続けたことがあるが、
たどり着ける訳も無く、三〇分ほどであきらめた。
しょせん幻だから
虹も夢も、しょせん幻。
知り過ぎるほど知っているのに。
分かりすぎるほど、明確なのに
それでも、虹を見ると
甘酸っぱい想い出に包まれる。
そして、そのたもとに
向かって車を走らせたくなる
「見果てぬ夢」などと言う
陳腐な言葉に心躍らさせられる年でも無いが
なんだろう。まだ、虹を追いたいという
この衝動の強さは。
俺は、虹を追う人だ
それが、幻だと知っていても
どうしても虹を追ってしまう。
たもとには多分たどり着けないだろうと思いつつも
万分の一の可能性が捨てがたい。
ただ、孤独では無い。
世の中には 不思議なくらい
俺と同じような馬鹿がいて
一緒に虹を追いたいと言うから
生きる分には飽きが来ない
俺は虹を追う人だ
だから、周りに同じ虹を追いたいという
馬鹿者どもが集まって、
けっこうにぎやかに暮らしている。
ひなげしよ。相変わらず、俺は、俺の小さな谷で
風に吹かれながら
虹を追う人々の小さな群れの先頭を歩いている
それをただ汝に伝えたかった。
